私は中卒で美容師になって30年になります。ベテランの私はご高齢の方に指名いただくことが多くて、「私が動けなくなった時、家に来てくれる？」って時々聞かれたんですね。女性は年をとってたとえ寝たきりになっても、やっぱり綺麗にしていたいんです。

老人介護施設には定期的に理美容師の訪問サービスがありますが、自宅にいる方はそれが受けられない。ボサボサの頭だと外出する気力もなくなってしまいます。いつか出張美容の社事がしたいなって漠然と考えていた時、東日本大震災か起きました。

伸びた髪で避難所にいる方たちをテレビで見て、私はすぐにでも被災地に駆けつけて役に立ちたいと思って、お休みをとって行かせてほしいとお店に直談判しました。でも私はお店を管理する立場で、許してもらえなかった。あんなに大変な人たちがいるのに、私は会社の利益のために安全なところで通常どおりシャンプーをしている。その自分がどうしても嫌で、11年の7月に、辞職しました。

リタイアされた美容師の方が短時間で働ける機会を提供

病気やご高齢で、美容院に行くのを諦めている方のために、自宅に出張して美容を行います。スペース的には畳２畳分くらいあれば十分なので、下に敷くシートも椅子も掃除機も持ち込み、お借りするのはお水とコンセントぐらい。メイクもしてあげて、気分転換してもらいたいですね。

正直、あまり儲かる事業ではありません。出張に移動時間がかかりますが、値段は高くしませんから。でも良い点は、一度リタイアされた美容師の方に短時間でお仕事をお願いできること。美容院は拘束時間がとても長いので、子育て主婦ではできないんです。美容師として働きたくても働けないという方たちに、少ない時間の少ない収入でも、せっかく身につけた技術を活かす仕事の機会を、提供できたらと思います。

そして、有志の方たちで今度こそ、被災者の方たちの髪を切る活動がしたい。いま、沿岸部の仮設住宅を視察しています。4月には始勤したいです。