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起業レポート - カール・サンドバーグ・エリック 楢葉コンピュファーム

カール・サンドバーグ・エリック

正式名称
楢葉コンピュファーム
企業形態
特定非営利活動法人

起業の動機

町の面積の約8割が福島第二原発から20㎞圏内にあり、原発事故直後に強制避難の対象になった楢葉町。散り散りに避難した町民は難民のように避難所を転々とさせられ、現在も避難生活を余儀なくされている。放射線量がおよそ国の基準を下回った同町は12年8月10目に警戒区域から避難指示解除準備区域になったが、町内に入れるのは9時から16時のみで、居住はできない。

約7600人の町民のうち6割以上が25㎞ほど南のいわき市に、約500人が会津地方に住むほか、福島市、郡山市など県内の市町村、隣接する茨城県、新潟県、栃木県や関東1都3県にも多数が移住した。

楢葉町はこのたび町民への支援目的で全世帯を対象に約4000枚のタブレットPCを配布する予定だ。そこで会津美里町のIT企業の代表であるカール・サンドバーグ・エリックさんらがNPO法人「楢葉コンピュファーム」を設立し、今後避難者がタブレットを有効活用するためのサポートを行う。

「まず楢葉町と連携して、『バーチャル楢葉』という楢葉町民のためのSNSを作ります。楢葉町の避難者は全国にいて、みな不安で寂しい思いをしているので、インターネット経由でみなが集まることができる場を作りたい。また楢葉町役場があるいわき市と会津以外にいる人は、国や東電かどういう補償をするか、楢葉町の除染やインフラかどうなっているか、どういうサポートがいつ締め切りなのかといったとても重要な情報か手に入らない。使いやすいSNSがあれば、友達同士でグループを作って情報交換ができる。ハードだけではなくソフトが重要です。」そうエリックさんは話す。SNSはみなが忌憚なく意見を言う場になり、楢葉町側も全国の避難者からの意見や要望を開くことができる。また、コールセンターを設置し、タブレットやSNSの使い方について問い合わせに対応する。これが完成すれば、大熊町、双葉町、浪 江町、飯舘村など他の町村にも展開したい考えだ。

リアルな場でもサポートを行っていく。楢葉町民146世帯、約300人が暮らす会津美里町の宮里仮設住宅の集会所において、パソコン教室を開催する予定だ。

解決すべき地域の課題

10年間で3000人が卒業した廃校を利用した山のIT教室 、じつはこの教育事業には実績がある。文部科学省からの派遣で福島県に勤めていたエリックさんは、福島の農業文化の美しさと人の優しさに感動すると同時に経済の退廃を目の当たりにし、会津美里町の廃校を借りて03年、任意ボランティア団体「会津コンピュファーム」を立ち上げる。地域の人々にITやパソコンの基礎を習得させ、都市部との情報格差や雇用格差をなくすことが目的だ。

「山のIT教室です。最初はみんなボランティアの概念が分からなかったけど、卒業した人が先生になって次の生徒に教えていってみんなで助け合うことか嬉しいという良い環境がつくれた。生徒からほとんどお金をとらなくて、5歳から95歳まで3000人の卒業生を作ることができたのです。このノウハウを楢葉コンピュファームに使います。」

ビジョン

さらなる狙いは会津にITビジネスを創出することだ。「会津の素晴らしい環境の中で、自然を汚す工業ではなく、クリーンなITビジネスを作りたい」の思いから、ウェブ系やシステム系の開発スキルを習得する80カリキュラムを用意。技術を習得した生徒を雇用してITビジネスを行う営利企業として11年に立ち上げたのが、スマート・テクノロジー社だ。楢葉コンピュファームからも、優秀な人材を育てて採用したいと考えている。 「楢葉や会津のコンピュファームの卒業生から、メガソーラーなどの自然エネルギーや、スマートグリッド(ITにより電力網内での需給バランスの最適化を行い、省電力省コストを実現)の技術開発など、新エネルギーのベンチャーを立ち上げてほしいです。」

さらに、電子聴診器を使った遠隔医療や、ITを利用した高齢者や持病を持った人への安否確認システム、そして、今回の震災の情報をデータペース化し、今後想定される日本全国の震災シミュレーションと組み合わせ、それぞれの地域の住人が何をどう備えたらよいのかか分かるシステムを開発する構想だ。 「日本の未来を、福島から変えていきたい。」エリックさんは本気でそう考えている。