iSB 公共未来塾-復興支援型-は、被災地のNPOと協働し、地域の福祉・介護分野での社会的企業を担う人材を育成、支援します。
日本の里山が荒れていると言われる。かつては燃料用の薪や食用の山菜・キノコの採取など、人間の適度な介入と管理の下にあった里山は、豊かな生態系を育む一方、野生動物と人間の緩衝地帯としても機能してきた。しかし、人間が里山を利用しなくなって、その機能も失われつつある近年では、クマやイノシシ、シカなどの鳥獣か簡単に畑に出て農作物を荒らす被害が深刻化している。
「日本人はもともと、豊かな自然を利用しながら、自然と仲良くやってきた。ところが、ライフスタイルが変わり、薪や炭を使わなくなったりして山から離れたために、少しずつバランスが崩れていったんです。それを昔のように戻すというのではなく、今のライフスタイルにマッチする日本らしい形がきっとある。それを探していきたい。」
有限責任事業組合「おーでらす」代表の今野万里子さんはそう話す。おーでらすは、会津只見地方の山言葉で太陽を意味する「おーでらし」から付けた名前。会津地方のサルやクマ、イノシシなどの獣害対策に加え、野生動物の住む里や獣害の存在を知ってもらうためのガイドツアーに取り組んでいる。
継続的な獣害対策を行うには地域の人のやる気と元気が必要!
獣害対策には継続的な対応が不可欠だ。しかし、獣害対策に関わるNPOの多くは行政からの委託で事業を行っているため、行政の金がなくなれば、たちまちに対策も途切れてしまう。「それではいかん」と思ったのが、おーでらすを立ち上げた動機だという。
「NPOや専門家だけが対策をするのは違うだろうと思った。地域の人にも対策を知ってもらわないと。でも、地域の人にやる気と元気がないと被害対策はできない。自分の地域を好きになって、被害を減らしなから収入も得て、元気になれば被害対策もだんだんできていくのかなと思った。」 おーでらすが行う弁当事業はその一環だ。例えば、電気柵を設置させてもらった農家で米か取れたら、それを通常より高値で買い取り、都会向けに弁当を作る。弁当には獣害対策によりできた米だという説明を付け、支援寄付金込みで販売。寄付金を次の獣害対策に活かしていく仕組みだ。
また、スノーシューを履いて雪原を歩き、野生動物の足跡から生態を知るツアーや、クラフト体験などさまざまなイベントを企画・運営し、都市部からの集客を図っている。
「地元の人は意外と自分たちの地域の魅力に気づいていない。都会の人に来てもらって、『オラたちの村にもいいところかあるんだ』と気づいてもらうためのイベント。気づけば、次のステップとして何かをやどうという話が出てくる。私のようなよそ者が行って、『ここがいいよ』という話をいっぱいさせてもらっています。」
人と自然が仲良く暮らす社会のための橋渡しがしたい!
今野さんは千葉市出身。高校卒業後に入った専門学校で野生勤物の保護管理について学んだ。卒業後、星野リゾートに就職し、軽井沢の「ピッキオ」でツキノワグマの対策員を経て、同社が運営するアルツ磐梯へ。そこで出会った会津の自然に魅了され、2006年に同社を退社して磐梯町に移り住んだ。
その後、NPO法人「ふくしまワイルドライフ市民&科学者フォーラム」でクマの被害対策に従事。2011年6月、専門学校で1期先輩だった渡邉憲子さんと「おーでらす」を立ち土げた。
「専門学校では、個体数を管理する西洋のワイルドライフマネジメントを勉強してきたのですが、地域に深く入れば入るほどギャップを感じました。農家さんは鳥獣の被害に疲弊していたりして、野生動物を管理するどころの話ではなく、地域全体を元気にしていかなければいけないと思いました。」 地域の人たちが自ら継続的な獣害対策に取り組み、人と野生動物の住み分けを実現する。自然環境を含めた自分の地域に誇りと愛着を 持ってほしいというのが今野さんの願い。 「自然と人が仲良く暮らす橋渡しをしたい。そこに生きる動物と暮らす人、地域をつないで、両方が仲良くできるところを目指せれば いいと思います。」