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起業レポート - 水野 美代子 幸齢社会プロジェクト

水野 美代子

正式名称
幸齢社会プロジェクト
企業形態
一般社団法人

起業の動機

「地域の人がみんなでお年寄りの生活のお手伝いをして、寂しさや孤独感を取り除いてあげて、生きる意欲を取り戻すようなサービスをしたいです。」水野美代子さんはこれから始める朗朗介護事業について、そう語る。

以前は児童養護施設と知的障がい者施設で入所者の身の回りの世話をする指導員をしていたこともある水野さん。今回の起業に至ったのには、複数の背景があったという。

「父が白河市で建具職人をしているのですが、7年前に母が病に倒れ、介護が必要になりました。父は自分が面倒を見ると言いましたが、近所には母が通える充実した施設はありませんし、父一人ではとても無理でした。それで郡山に母を呼び、私と妹と母の3人で生活を始めたのです。私は市役所の非常勤嘱託で短時間勤務で雇用していただきました。妹も短時間勤務できる仕事を見つけ、交代で母を介護しながらの生活を続けています。

そうしたなかで、地域に暮らす中高年の方々を見るうちに、元気な人とそうでない人の落差を感じました。なんとなく日常を過ごしている方を多く見かけると、『何か生きがいを感じる時間を持つことができたらもっといいんじゃないか』って感じていたんです。そんな矢先、東日本大震災が起きました。」

解決すべき地域の課題

お年寄りが孤立しないために地域社会との繋がりが必要 「震災後の郡山市内はパニック状態で、食べ物もガソリンも、とにかく不足していました。そしてさまざまな動揺や不安が、高齢者にはとてもダメージか大きいということを母を通じて感じました。ダメージを受けたのは要介護者だけではありません。放射能汚染から子や孫を守るために家族が県外に避難し、心細くされている高齢の方。生まれ育ったふるさとを離れて郡山に来て、慣れない土地で避難生活を送る方。今、この土地の人はとても地域社会の繋がりを必要としている。誰ひとり孤立しないよう地域で見守り、地域活動に参加できる機会を提供したいと強く感じたのです。その時、iSB公共未来塾を知り、私に何ができるのか勉強したくて、インターンシップ事業に参加しました。」

新潟県中越地震の際、水野さんは小千谷市に1ヵ月間、震災ボランティアで滞在した。その経験から、大災害の際は特に、誰も孤立しない地域社会が大切だと知っていた。研修プログラムでは社会的企業について熱心に学び、愛知県で水野さんの考えをまさに実践しているNPO法人「福祉サポートセンターさわやか愛知」の存在を知り、起業を決意する。

ビジョン

地域付き合いが希薄になっている今、助け合いの地域社会を作りたい。  

朗朗介護事業は、要介護者に対して、介護保険事業の制度内外のサービスを提供していくものだ。介護保険適応のサービスは介護福祉士やホームヘルパーが行い、適応外のサービスを有償スタッフである「たすけあい会員」が行う。訪問して要介護者や家族が困っているさまざまなことをサポートするだけでなく、病院や買い物にも付き添う。地域のお祭りや寄り合いなどにも一緒に出かけたり、あるいは集まれるイベントを主催する。

「仕事を引退した元気なシニアの人たちが、介護が必要なお年寄りを訪問してお手伝いをしたり、病院や買い物に付き添ったり、いろいろと助けてあげる。それによってお年寄りは、新しい楽しみを見つけたり、人と接することが嬉しかったりして、より楽しく豊かな生活を送ることができると思うんです」

介護家族の負担も減る。父や母や妻や夫の介護のために離職せざるをえなかった人が、再び仕事をして収入を得られるようになったり、息抜きができたり…不安なく、心のゆとりある暮らしかできるようになる。  一方、たすけあい会員にとっても、身体を動かし、人と接し、感謝され、収入を得て、その仕事が生きがいとなる。そしていつか介護が必要な立場になったとき、次の世代の元気なシニアの人たちが、自分を助けてくれるようになる。地域社会の助け合いの循環が生まれるのだ。

老老介護の高齢社会ではなく、笑顔がこぼれる「朗朗介護の幸齢社会」を地域で築く。「人生で何が起こっても、あなたは一人ではありません」と言える地域社会を作ることが、水野さんの願いだ。