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ツリー型ロジック・モデル添削教室

                                    公益社団法人 日本サードセクター経営者協会
                                                代表理事 後房雄

             


ツリー型ロジック・モデル添削教室

    第1回 JANPIA「事業設計図」



趣旨説明

<目次>

    1 単線型ロジック・モデルからツリー型ロジック・モデルへ

   2 ツリー型ロジック・モデル作成の原則

   3 ツリー型ロジック・モデルとセオリー・オブ・チェンジ

    <ツリー型ロジック・モデル文献紹介>

1 単線型ロジック・モデルからツリー型ロジック・モデルへ


 ツリー型ロジック・モデル(以下、TLM)は、数個から10数個ほどの事業(事業群)によって、ある程度大きな課題、目標、ビジョン(将来実現しようとする状態)を達成するという因果関係の全体像を一つのツリー型のチャート図によって示したものです。
 一つの事業が最終目標を達成するに至る因果関係を直線的なチャート図で示したものがロジック・モデル(TLMと区別して単線型ロジック・モデル)です。

              

                    

 図1 基本的なロジック・モデル(単線型ロジック・モデル)                  

                    

 それゆえ、TLMは単線型ロジック・モデルを数個から10数個ほど組み合わせたものと言えます。しかし、TLMは単線型LMをいくつか集めたものとは質的に違った独自の特徴を持っています。
 最大の特徴は、単線型LMがややもすると特定事業の正当化に陥りやすいのに対して、TLMは実現したいビジョンをまず設定し、それを基準にして事業の有効性を問い直すという性格をもっている点です。
 特定の事業が最終目標の達成に対して有効性を持つということを主張しようとすれば、かなりの範囲で主張できてしまいます。そのようなストーリーを何とか作ろうと思えば作れてしまうという有名な例は、風が吹けば桶屋が儲かるというストーリーでしょう。このストーリーのどこが論理的に弱いかは一見して分かりにくいので、何となく納得してしまいがちです。
 ところが、TLMでは、まずはビジョンを固定し、そこから逆算して長期成果、中期成果までを右から左に(つまり時間軸に逆行して)作ったうえで、事業から出発した因果関係(活動内容→アウトプット→短期成果→?)がその中期成果にきちんと到達するかどうかを緻密に検討することになります。
 事業から大きな目標に到達する因果関係は、悪く言えばどのようにも作成することが可能ですが、かなり具体化された近い目標である中期成果に到達する因果関係はごまかしがきかなくなるのです。
 そして、ビジョンから逆算して設定した中期成果に対して、ある事業からの因果関係がつながらないとすれば、もちろん、変えるべきは中期成果の方ではなく事業の方だということは明らかでしょう。その場合、その事業はその中期成果を実現する事業群からは外すことになります(他の中期成果に対して有効性が認められる場合は、そこに配置することはありえます)。
 さらにいえば、想定していた事業がその中期成果の実現に対して有効性を持たないことが明らかになったら、その事業を外すだけではなく、その空白部分に新たに有効な事業を企画立案することが必要になります。また、一つの事業が有効だと確認できたとしても、それだけではその中期成果を実現するには十分ではなく、さらに新たな事業を追加した方がより確実にその中期成果を実現することができるという場合もあるはずです。
 このように、TLMはビジョンを設定したうえで、そのための新たな有効な事業を全体像のなかの欠落部分において的確に企画立案することを可能にする点が大きな長所です。
 単線型LMも最終目的をめざして事業を企画立案するために使えますが、すでに指摘したように、最終目的を基準にして長期成果、中期成果を検証する機能が弱すぎて、活動内容→アウトプット→短期成果と伸ばしてきた因果関係をそのまま強引に中期成果→長期成果→最終成果と結び付けてしまいがちになります。つまり、最終目標から事業の有効性を検証するという側面よりも、事業の有効性を正当化するような形で因果関係を無理にでも作成してしまう側面が優越しやすいということです。
 このように説明すると、ツリー型ロジック・モデルは、数個の単線型ロジック・モデルを組み合わせたものとは全く異なる独自の特徴をもったツールだということが理解されると思います。事業ありきではなく、ビジョンをまず明確化して、そこから逆算してその実現のための事業群を割り出そうとするものです。その際には、すでに想定している事業は、それにふさわしい中期成果のもとに位置付けられますし、十分な事業が想定されていない中期成果に対しては新しい事業を企画立案することになります。そして、どの中期成果にも有効性をもたない事業はそのTLMからは外すことになります(事業の改善によって有効性が認められる場合もあるかもしれませんが)。

           

 2 ツリー型ロジック・モデル作成の原則 


 こうした理解を前提にすると、TLMの作成においては、時間軸に沿って左から右へと因果関係を伸ばしていくのではなく、ビジョン→長期成果→中期成果と逆算して作成していくという点が決定的に重要だということがよくわかると思います。
 ちなみに、中期成果まで逆算で作成するのを越えて、短期成果、アウトプット、活動内容までを逆算で作成すべきではないかと思われる人もいるかもしれません。論理的にはありうる考え方ですが、実際にそれを実行しようとすると、左にいくほど逆算で出てくる要素が多くなりすぎてしまうという問題点に直面します。LMは主要な因果関係に絞って提示しないと、蜘蛛の巣のようになってしまって読み取り難くなってしまうのです。
 また、活動内容→アウトプット→短期成果までの三段階は、非常に具体的で時間的にも近いので、正当化の論理が入りにくいということもあり、現在のところ、中期成果までを逆算で作成したうえで、その中期成果毎に事業を仮に配置したうえで、活動内容→アウトプット→短期成果からその中期成果につなげることが論理的に説得的であるかどうかを判断するというやり方が最も現実的だと考えています。
 実は、われわれも初期には、ビジョンから長期成果までを逆算で作成していたのですが、長期成果はまだかなり大きくて事業の正当化の論理が入りやすいので、さらに中期成果までを逆算で作成するというやり方に転換したという経過があります。
 このように、ツリー型ロジック・モデルはわれわれが2005年に開発して以降、多くの自治体やNPOなどに関して作成支援をするなかで、徐々に改良し作成ノウハウを蓄積してきたものです。その作成ノウハウは、一般的な説明では簡単には身に付きにくいものなので、具体的なTLMの実例を添削する形で説明するのが最も理化しやすいのではないかということでこの「添削教室」を企画した次第です。

3 ツリー型ロジック・モデルとセオリー・オブ・チェンジ


 最後に、なぜ2005年にTLMを新たに開発しようとしたのかという点について説明しておきます。これは、TLMと原理的には同じ構成を持つセオリー・オブ・チェンジが1990年代のアメリカで開発された理由とも重なります。
 それは、NPOや行政の実際の現場では、一つの事業だけを実施しているということは例外的であって、ほとんどの場合、数個から10数個の事業で一つの大きな目標を実現しようとしているのが現実だということです。
 その場合、一つ一つの事業ごとにバラバラに有効性を検証するのでは決定的に不十分であり、数個から10数個の事業(事業群)が全体として総合的にビジョンを実現する有効性をもっているという全体像を検証する必要があります。こうして、単線型ロジック・モデルからツリー型・ロジック・モデル(セオリー・オブ・チェンジ)への質的飛躍が必要となったわけです。
 *以上について、より詳しくは、次の文献を参照。後房雄『地方自治における政治の復権 政治学的地方自治論』北大路書房、2022年、第Ⅴ部。

 <ツリー型ロジック・モデル文献紹介


 私自身が最初にツリー型ロジック・モデルの試作品を発表したのは、2005年12月でした。
・後房雄「ツリー型ロジック・モデル―最終成果を達成するための事業編成」、『ガバナンス』2005年12月号。

 その直後から、三重県伊賀市、愛知県一宮市、愛西市、東海市、豊明市など多くの自治体で、総合計画策定の一部として、政策マーケテイングによって40前後の地域の重要課題(施策で取り組む規模)を探り出し、それをビジョンとしてツリー型ロジック・モデルを作成する支援してきました。この過程で、いわゆる成果指標は、ロジック・モデル抜きには意味をなさないことも明らかになりました。ビジョンの成果指標、中期成果の成果指標などとアウトプット指標が同列に置かれるというような珍現象は、依然として多くの自治体に見られます。
 それと並行して、NPOコンサルティングにおいても、自治体ほど事業数は多くない形のTLMの作成を活用してきました。そのテキストとして、以下のようなパフレットや本も発行してきました。
・尾関浩美(後房雄監修)『ロジック・モデルを作ろう』市民フォーラム21・NPOセンター、2007年。
・松本美穂(後房雄監修)『NPOのためのロジックモデル・ワークブック』市民フォーラム21・NPOセンター、2007年。
・後房雄、藤岡喜美子『サードセクター組織のためのオンリーワン戦略』日本サードセクター経営者協会、2012年。
・後房雄・藤岡喜美子『稼ぐNPO』カナリアコミュニケーションズ、2016年。

                                

ツリー型ロジック・モデル添削教室

     

第1回 JANPIA「事業設計図」

 JANPIA(一般社団法人・日本民間公益活動連携機構)が、休眠預金活用事業における『実行団体向け評価ハンドブック(2022年3月版)』のなかで、NPO法人Aの「事業設計図」として、次のようなツリー型ロジック・モデルを提示しています。

    

 

これを素材として、どこに問題があるか、どのように修正したらいいかを検討していきたいと思います。ここに見られる問題点は、私たちがこれまで多くの作成支援において直面してきたものとかなり重なっているので、皆さんが作成するときに陥りがちな問題点を具体的に知るうえで有益だと考えています。

       

  

  

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