日本サードセクター経営者協会設立趣意書
日本サードセクター経営者協会は、特定非営利活動法人から各種公益法人、任意団体、協同組合、社会的企業までを含むサードセクターの経営者が分野や制度の壁を越えて横断的に集う日本で初めての全国組織である。
本協会は、サードセクター組織の経営者に対して、お互いに経験や意見を交流することで親睦と連携を深める場と機会を提供し(つなぐ)、自らの経営者としての力量を向上させ次世代の経営者を育てることを支援し(伸ばす)、サードセクター経営者の集団として政府・行政や社会に対してセクターの存在価値を主張しさまざまな提言を行う(提言する)。
本協会は、このような活動を通じて、従来、政府・行政(第一セクター)や企業(第二セクター)に比べて力量が乏しく社会的存在感が小さかった日本のサードセクターを名実ともに確立し、三つのセクターがそれぞれ適切な役割を果たす多元的な社会を実現することをめざす。そうした社会においてこそ、市民は、主権者、利用者、消費者としてだけでなく、生産者、活動者としても社会的役割を担い、発言力を行使することができると確信する。
こうした目標に照らせば、日本の現在のサードセクターは克服すべきいくつもの大きな課題を抱えていることは事実であるが、しかし、本格的なサードセクターの確立を要請しかつ可能にするような状況が社会の様々な分野で広範に生まれつつあると私たちは認識している。
明治以来の近代化を主導してきた政府・行政は、近代化達成後、高度成長以後、冷戦終結後の新しい状況のなかで、「官から民へ」、「国から地方へ」という方向での根本的な転換期に入っている。そのなかで、1998年に特定非営利活動促進法が成立して以降10年間で約3万6千団体が認証され、主務官庁制の枠外で分野横断的に自由に活動する特定非営利活動法人の世界が成立し、市民による公益的な活動の興隆を引き起こしたことはサードセクターの成立に向けての最初の突破口となった。また、2006年に、明治29年制定の民法34条の削除を含む公益法人関係条文の110年振りの大改正が行われ、主務官庁制のもとでの外郭団体という日本的病理の根拠となってきた公益法人制度の抜本改革が開始されたことはもう一つの突破口といえる。こうしたなかで、政府・行政に市民の声を反映し、市民が納得する公共サービスを提供するためのもう一つの「民」の力として、企業と並んでビジョンと活力に富むサードセクターの確立が可能かつ必要になっている。
企業もまた、バブル崩壊や世界的金融危機などを経て、社会的に責任のある企業活動をより強く求められるようになっているだけでなく、大量生産・大量消費・大量廃棄の時代を越える新しい産業分野の開拓に取り組むことを迫られている。その際には、ビジョンと活力に富むサードセクターは、社会的責任を果たし、社会的革新に挑戦するうえでの有力なパートナーとなりうる。
個々の市民もまた、日本社会の成熟のなかで、民主主義の観客、受動的な公共サービス利用者としての立場から脱却して、民主主義の実質的な主体となるだけでなく、政策形成や公共サービス提供の能動的な担い手となり、また多様な自主的社会活動の主体となることを望むようになりつつある。サードセクター組織は、そうした能動的市民に対して身近な活動の場と機会を提供することができる。
しかし、日本のサードセクターが、こうした動向が生み出している歴史的なチャンスを活かし、こうした大きな社会的任務を果たすためには、自ら克服すべき重大な課題が存在することを私たちは深く自覚している。
多くの組織は、資金や人材に乏しく、掲げる社会的目標を達成するには程遠い状況である。また、主務官庁制によってコントロールされ、分野毎、制度毎に分断されたいわゆる「外郭団体」問題も依然として未解決である。そして、何よりも、企業セクターに比べて、あるいは他の諸国のサードセクターと比べて、日本のサードセクター経営者の力量が不十分であり、次の世代を担う人材の層も薄いことを認めざるをえない。昨今の非営利法人にまつわる不祥事に象徴されるように、公益セクターとしての文化の定着や国民的な認識が未成熟であることも大きな課題である。
こうした課題を直視しつつ、日本サードセクター経営者協会は、今後、経営者個々人を横断的につなぎ、力量形成を支援することを通じて、ビジョンと活力に富む広範なサードセクターを日本において確立し、政府・行政セクターや企業セクターとの間で、相互の自律性が尊重され、協力して大きな社会的成果を挙げられるような連携関係とそのためのインフラを構築していくという巨大な課題に挑戦していく。
多くの意欲あるサードセクター経営者と経営者志望者に対して共に活動されることを心から呼びかけるとともに、政府・行政セクターや企業セクターで活動されている方々や広範な市民の皆様に対して、連携と熱い支援をお願いするものである。
付記
日本サードセクター経営者協会は、イギリスのAssociation of Chief Executives of Voluntary Organizations=ACEVO(ボランタリー団体経営者協会)から多くの示唆を受けて構想されたこと、そして2009年9月1日の設立総会にはACEVOのCEOを記念講演に招待したことなどの経過を踏まえて、英文名称をThe Japan Association of Chief Executives of Voluntary Organizationsとする。また、通称としてJACEVO(ジャキーヴォ)という名称を用いる。
2009年9月1日設立総会にて承認